ガリバー旅行記
ジョナサン・スウィフト
絵・宮本忠夫
わたしはガリバーという医者です。船に
乗って旅行するのが大好きです。いろいろな
国へ行きましたが、今日はふしぎな国へ行っ
たときのお話をしましょう。
あるとき、船で南のほうへ進んでいたら、
ものすごいあらしがやってきて、船がしずん
でしまいました。わたしは六人の仲間といっ
しょにボートに乗り移りました。
ところが波が荒くて、ボートをこぐことも
できません。あっちへゆらゆら、こっちへぐ
らり。まるで木の葉のようにゆれていました。
そのうちに大波を受け、ボートはあっという
まにひっくり返ってしまいました。
わたしはこわれたボートの板につかまって、
夢中で泳ぎました。まわりは波ばかりで、だ
れもいません。だんだんつかれてきて、手も
足もしびれそうです。
(もうだめだ……。)
そう思ったとき、目の前に海岸が見えまし
た。わたしは残っている力をふりしぼって泳
ぎました。海岸に着いたときには、もうくた
びれてしまって、動くこともできません。そ
のまま死んだようにねむってしまいました。
どのくらいねたでしょう。ふと、気がつく
と、空の上にお日さまがのぼっていました。
(助かったのだ。)
わたしは起き上がろうとしました。ところ
がどうしたことか、手も足も頭も地面にしば
りつけられていて動けません。耳元で人の話
し声がします。むねやおなかの上を、虫のよ
うなものが歩いています。
無理に目を下のほうに向けると、これはお
どろいた。なんと、十五センチほどの小人た
ちがおおぜい、はい上がってくるではありま
せんか。よく見ると、手に弓と矢を持ってい
ます。
わたしはびっくりして起き上がろうとした
ら、地面にしばりつけてある左手がぬけまし
た。そのひょうしに何人もの小人たちが地面
へ転がり落ちました。わたしは左手で、小人
たちを払いとばしてやろうと思いました。
ところが、そのとき何百もの矢がとんで
きて、左手にあたりました。
「痛い!」
わたしは思わずさけんで、左手をおろしま
した。小人をおこらせ、針の穴で目でもつか
れたらたいへんです。わたしはじっとしてい
ました。
そのうちに、わたしのかたにはしごがかけ
られました。なんだかいいにおいがしてきた
かと思ったら、小人たちが食べものの入った
かごをかついで、のぼってきました。わたし
のあごのところにかごをおき、食べものをよ
いしょと口の中へ放りこんでくれました。
口の中に放りこまれたのは、おいしい羊の
肉でした。
でも、大きさはひばりの羽ほどもありませ
ん。パンも鉄砲玉くらいです。わたしは、そ
れを一度に三つずつ食べました。
今度はさかずきくらいのおけに、飲みもの
を入れて運んできました。とてもおいしいぶ
どう酒の味がしました。まもなくわたしは長
い板にのせられ、どこかへ運ばれていきまし
た。あとでわかったのですが、そのとき
千五百頭の馬と九百人の小人たちに
引かれていったそうです。
おろされたところは、この国の都の入口に
ある大きなお寺の前の広場でした。広場にや
ぐらがつくられ、王さまが家来を連れてやっ
てきました。わたしをしばっていたつながほ
どかれ、体が自由になりました。でも、左足
にくさりがついていて、お寺の庭は自由に歩
けても、外へは出られないようにしてありま
した。
わたしは小人をふまないようにして立ち上
がり、あたりを見まわしました。
なんて美しい国でしょう。野原は一面の花
です。その中に畑があって、畑の間には森が
あります。森の木は一番高いものでも、ふつ
うの人間の背たけくらいです。左のほうに王
さまの城があり、赤や青い屋根の小人の家が、
城を囲むようにしてならんでいます。
わたしはお寺の前の広場でくらすことにな
りました。夜、ねるときは建物をこわさない
ように、はいながらお寺へ入っていって休み
ました。
そのうちにわたしは少しずつこの国の言葉
を覚えました。毎日、おおぜいの小人がわた
しを見物するためにやってきます。けがをし
ないよう、みんな遠くからわたしをながめて
いました。
「これはすごい。まるで山のような人間だ。」
「うっかりおこらせるなよ。あいつがあばれ
たら、みんなふみつぶされるぞ。」
わたしはときどき、ほんとうにあばれてや
ろうかと思いましたが、一日千七百二十人分
の食べものをただで食べさせてもらっている
ので、がまんしました。
そのうちに、わたしがおとなしい人間だと
わかって、足のくさりもはずしてくれました。
そのかわり、王さまのゆるしがなくては歩か
ないように約束させられました。
わたしが歩くときは国じゅうにおふれが出
て、みんなふまれないように家の中に入りま
す。わたしは王さまのゆるしをもらい、とき
どきこの国を歩いてみましたが、見れば見る
ほどすばらしいけしきの国です。
ところが、この国にこまったことが起こり
ました。となりの国の小人が船に乗って、せ
めてくるというのです。王さまが家来を連れ
て相談にやってきました。そこで、わたしは、
はがねのつなとかぎ針をつくり、それを持っ
て海岸へ行きました。すると、どうでしょう。
小さな船が何百せきも、こっちへ向かってく
るではありませんか。わたしは、はがねの矢
にあたってもいいように皮のチョッキを着て、
めがねをかけ、海へ入っていきました。
さあ、敵の小人たちはわたしを見ておどろ
きました。あわてて海へとびこむ小人やら、
船の中でうろうろにげまわる小人やら。みん
な大さわぎです。
わたしは船にかぎ針をつけ、針金のつなで、
よいしょよいしょと引っぱりました。中には
勇気のある小人もいて、何本もの矢がとんで
きましたが、ぜんぜん平気です。矢は皮の
チョッキにあたって、ぽろぽろ海へ落ちるだ
けです。
「わあい、ガリバーがひとりで、敵をやっつ
けたぞ。」
「すごいぞ。ガリバー!」
海岸にいた味方の兵隊たちが、手をたたい
て喜びました。
敵の船を何せきも引っぱってきたわたしは、
王さまに言いました。
「王さま、これで、敵はもう、せめてきませ
ん。敵の兵隊たちをみんな助けてあげてくだ
さい。となりの国と仲直りするのです。」
「わかった。ガリバーの言うとおりにしよう。」
王さまは使いの家来をとなりの国へ送り、
仲直りすることにしました。すると、となり
の国の王さまが言いました。
「仲直りするかわりに、一度でいいからガリ
バーという山のような人間に、こっちの国へ
きてもらいたい。」
そこで、わたしは小人の国の一番大きな船
を何せきもつなぎ合わせ、その上に乗ってと
なりの国へ行きました。となりの国の王さま
は大喜びで、わたしをむかえてくれました。
わたしは小人たちをふみつけないように注意
しながら歩いて、王さまにあいさつをしまし
た。
「王さまの言うとおりにやってきました。し
ばらくお世話になります。」
わたしは、それからこの国で毎日すばらし
いごちそうを食べさせてもらいました。でも、
わたしのねられるような家もベッドもないの
で、地面にねなければなりませんでした。
この国へ着いて三日目のことです。なんと
なく海岸を歩いていると、色のはげたボート
が流れてきました。わたしのように、あらし
にあった船から流れてきたものに、ちがいあ
りません。それを見ると、わたしは急に自分
の国へ帰りたくなりました。すぐに王さまの
ところへ行き、
「わたしは、もうとなりの国へも帰りません。
あのボートで自分の国へ帰らせてください。」
と、言いました。
「それは残念です。でも仕方ありません。さっ
そく出発の用意をさせましょう。」
そう言って、王さまはわたしのために、何
千人もの小人たちを集めて、ボートをしゅう
ぜんさせ、食べものをつんでくれました。
「では、気をつけて。ごきげんよう。」
「ありがとう、王さま。となりの国の王さま
にもよろしく。」
わたしはボートに乗り、海へこぎ出しまし
た。ボートはやがて広い海へ出ました。もう
小人の国は見えません。わたしはボートをこ
いでいるうちに、大きな船に会いました。う
れしいことに、その船はわたしの国の船でし
た。わたしは、その船に乗せてもらい、無事
に自分の国へもどることができました。
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