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アクタバ旅行記② ※お読みもの

アクタバ旅行記② ※お読みもの

駅前のコンビニもなければ、人影すらない。そして極めつけに対向線路がないのだ。つまり、この電車が終着して引き返してくるのを待たねばならない、ということか?日本の精密な時刻表によれば、それが三時間も後だというので恐れ入る。いつになく自然の中で少し考え込む。この時期だ。あの可愛い子ちゃんの帰ってくる頃には、きっと日も落ちている。今でこそいいが、じっとしていれば芯まで冷えることだろう。そもそも私がこんなところでじっとしていられるはずがない。やはりそれしかないのだ。私は腹をぎゅっと括って狂撃の選択に出た。乗り過ごした駅を逆走する。当然一輪車たりとも車は無い。しかしホテルも押さえてしまった。特に予定も決めていないのは、起こるべくハプニングも楽しもうと思ってたからだ。でもこれはいただけない。でも、残す訳のほうがいけなかった。
 この辺境で道が思うように舗装されているはずもなく、少し出て、国道沿いをメキメキと歩いた。決めてからは意外と余裕ができて、車通りの少なさとかに興奮していた。絶妙な若さというのは危なかっしいもので、時に自分を過大評価してしまう。背筋が伸びているせいでものを上から見てしまうのだ。
 国道には〇〇まであと〇キロメートルみたいな標識がある。それによると寝床まであと二十キロメートルあるらしい。なるほど、ハーフマラソンだ。人間の常識の枠内ではあるが、実に過酷な睡眠前準備である。よく眠れそうだな全く。
 さすがの大通り、変わり映えないので、あっという間に日が落ちてきた。淡い群青色と先端にかけてふわり黄味がかる。殺風景な電光掲示板は現在の気温を十二度と示していたが、私には関係なかった。履き慣れた靴と薄手のカッターを着ているのが幸いしていた。
 もうヘッドライトも嬉しいほどに暗くなった。だのにまだ折り返してもいないという事実は私の心に深く突き刺さっていた。もう五、六歳幼ければ泣き出していた頃だろう。大人はいけない。こういうところで弱音を吐けない妙な強さを持ってるから。そして、ようやく気付いた。バス停がある。不思議と葛藤があった。もしかしたら、この障壁は私の旅を実にスパイシーにしてくれるのかもしれなかった。折り返していないとは言え、もう一時間と半分は歩いた。バスに頼るなどという、牛乳をぶっかけるような行為、スパイス検定一級保持者として許されたものではないことは、悔しくも明白であった。バスはまだいくつかある。足にも余裕があったので、最終と鉢合わせるまで、と意地張った。
 いよいよ体が冷えてきた。冷静な証拠だ。上着を羽織って、フリスクを一粒。そしてマスクをひん剥いた。前が曇って見えづらいから。さあ、折返しだ。
 この季節は鍋が良い。鍋をすると四分の一カットの白菜などすぐに無くなってしまう。テスト時間残り15分。大問一つも残っていれば、もう見直しは諦めたほうが良い。ハーフマラソンの半分ということは、つまりその程度なのだ。足元はヘッドライトに照らしてもらわないと何も見えないが、私の足取りはむしろ弾んでいた。内側からどんどん火照っていき、皮膚との温度差で体調を崩してしまいそうだ。足はそろそろ辛そうだが、心が折れそうにない。実は次のバス停で最後のバスと鉢合わせる。正直このまま行くと二日目、三日目があまりに気の毒だという内心もある。葛藤が近い。
 ブンとすれ違う車には私のことなど見えていなくて、信号待ちの運転手に、なぜ彼はこんな時間に国道沿いを歩いているのだろう、と思われるのがせいぜいだ。例えば何らかの方法で私の状況を理解してくれたとしたら、拾ってくれる人の一人や二人いてもおかしくないはずだ。それがもう3時間も無視され続けている。なんだか売れないアーティストみたいだな。血の滲むような努力をしているのに、独りよがりなプライドにしがみついているために、その向ける方向を間違える。だから誰にも拾ってもらえない。ああ、まさしく私の人生だ。でもこれがいいんだって。これがロックなんだって。
 バス停を通り過ぎたと同時に最後のバスが停まった。振り返らなくとも分かった。
チェーン店が軒を連ねる頃、私は何も感じなくなっていた。おなか空いたなとか、明日何しようかなとかくだらないこと。カーディーラーに並ぶ車のボディが結露しているのを見て、寒さを頭で理解する。そうでもしなければ分からなかった。私は今アドレナリンだけで歩いていて、ホテルについた途端ぶっ倒れるんじゃないだろうか。もうホテルが見えてくる。今私に追い抜かれた学生たちには、私はどう映っているのだろう。無人駅周辺から、随分歩幅も大きくなっているはずだ。あまり触れてこなかったが、いよいよ足の痛みは常軌を逸してきた。これは明日から大変になるぞ。
 ホテルの前で一粒息をついた。達成感とか安心感みたいなものは無い。ホテルに帰ってきたという事実。波乱の一日目は見事に軌道修正されて、実につまらないと感じてしまうほど。どうせならイノシシに襲われたり、意識を失ったりとかして、知らない天井をぼーっと見つめていたかった。息抜きの旅先で二十キロメートルを歩くやつの脳みそは、やはりクレイジーなのだ。歯が磨けることは、とても喜ばしかった。
 夜空に光るきらきら星だけが私を称えてくれた。
 やっとゆっくりご飯にありつける。昼食は店に似合わず埃を立ててしまったから。店の中が見えない木の扉をぐんと押すと、眼前に広がるガーリックとハーブの畑。開けたら最後、カウボーイでも入ってきそうな世界観に吸いこまれた。テキサスパンドラボックスだ。継いで接いだ木のカウンターには、ローマとかミラノとかの香りが染み付いてる。多分。席数は少ないものの間取りにゆとりがあって、待たせることに躊躇がなさそうなのが、美味しい店の面構えというものだ。海老のピザとサングリア、リモンチェッロを頂く。内装に似合った体格の店主に、なんだ女々しいやつだな、と思われたに違いない。私は海老が苦手なのだが、あえてこのオーダーにしたのは何か理由があるのだろう。正直今日の私には理解が及ばなくて困る。これが自分探しの旅だとしたら、まさに世紀の大失敗である。
 その後、バーに向かった。初めて入った。狭い。ぎちぎちだ。皆さんスーツだから、よそよそしくした。おいしんだけど新しい、なんだ薄いジュースみたいなのが来て、アットホームだけどぐっと入り込めない、未知の世界に呆然とした。いやしかし、最強のエピソードトークと生まれた場所の違いを武器に、キャリアと、品格と、辛うじて渡り合った。これの良いところは、その場にいる全員が何かしら話す気を持っていることだ。つまり私みたいな部外者は、ネットの乾いた電子音声とは別に、地元住民の肉声を用いて情報収集ができる。おかげさまで明朝の予定が確定した。それにしても高くつくけど、新たな世界を見て、少し背が伸びた気がした。お酒を原液で飲むのはほんの少しもったいないんだな。
 服は一式しか持っていないので、昨日はあれから、ホテルに備え付けのコインランドリーと部屋を、半目と半目のハーフアンドハーフで何往復かした。それでなくても、もともと私は不慣れな寝床では綺麗に眠れないたちで、二回目のアラームで見事に目覚てみせた。趣のあるアメニティで可能な限り身だしなみを整える。そしてたかが数時間で乾くはずもないランドリーは、可愛らしいドライヤーの重労働によってまともになった。機能ばかりに目を向けるのはいかがなものだが、こういうのにジーパンは向かない。昨日は慌ただしかったので、今日は早い行動で私をあっと言わせてみせよう。今朝は朝市に行くので、空はずしりと群藍色。
 気持ちい程度に寒い。良いは良いけど近頃の異常気象はどうも気まぐれだ。港を望むだたっ広い駐車場に、車と屋台が所狭しと言うのが理想だが、聞いていたのとは少し違った。週一の定期開催であるこの朝市が、今日は祝日なので特別開催という訳である。実に運命的なので、こうして労体にムチ打っているのだ。後から聞いた事によると、という訳で今日は人も屋台も少ないらしい。その割はやはり歳を食ったような方々ばかりで、それはもうアグレッシブに訛っているから異国情緒。港には二、三大きめの漁船があって、それをうみねこの群れが取り巻いている。朝市とは言うものの、その実態はまさにお祭りだ。提灯のような華やかさも、風物詩らしい物珍しさもないが、屋台に並んだ品々がそれを物語っていた。重ねて、とは

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